悠月屋 16/11/30

「思い出」2

 

「持ち物が増えるとは、本当に恐ろしいことですね」

ムーミンの谷の旅人スナフキンの言葉だったと思う。

記憶は定かではない。

 

ここでいう持ち物とは生活に本当に必要な道具たちではなく、無意識の中で存在し主を主たらしめる存在のことをいうと思う。

いわゆる思い出であり、即ち主の過去である。

 

人間は進化を必要とする。

進化し続けることで、環境に自らを適合させ続ける。

主が生老病死を辿るうちに、その身に宿る思いも進化する。

進化の結果として現在がある事を証明するため、それを形にする。

思い出の品。にする。

私。という存在を成り立たせるため思い出の品を必要とする。

 

しかし、これの逆説は成り立たない。

今この瞬間を私が生きるために、思い出の品は使わないものが大概である。

私、という存在は大概の思い出の品が無くても、然としてここにいる。

それを手放しても、私は確かにこの世に存在する。

全て手放しても、私は確かにこの世に存在する。

何物でも無くなっても、私は確かにこの世に存在する。

 

思い出品を一つ減らすたびに、自分の要素が少しずつなくなっていくと、なにのでもなかった頃に帰ることができる。

そのたび、進化の余地が生まれてくる

進化の余地がなくなることは恐ろしいことだと、スナフキンは語っているように思う。